田中由浩教授の取材記事が岩手日日新聞と神戸新聞に掲載されました。
◎みんな「幸せになりたい」
=心理学、精神医学、工学分野で=
―笑顔で消毒? AIに相談も―
コロナ禍(か)を経験した今、求められているのは「幸せ」。世界保健機関(WHO)も提唱する「Well―being(ウェルビーイング、身も心も満たされた状態)」という言葉が注目されています。心理学や精神医学、工学分野で進む「幸せになる」研究とは―。
▽幸せの因子は四つ
「幸せを感じる心にはメカニズムが存在する」というのは幸福学を提唱する慶応大学の前野隆司教授です。日本人1500人へのアンケートをデータ解析(かいせき)して導き出しました。
幸福が長続きするためには「自己実現と成長」「前向きと楽観」「独立とマイペース」「つながりと感謝」という「四つの因子」が必要で、それらを満たしてこそ実現するという理論。その本質は「人と比べて生まれる〝幸せ〟は長続きしないということ」と言います。
▽「笑顔」でシュッ!
幸福学の理論を活用したのが共同研究者でIT起業家の末吉隆彦さん。人の笑顔(えがお)をAIで認識(にんしき)する技術を使い、笑顔で手をかざすと除菌(じょきん)液が出る「エミーウォッシュ」を開発。
無料か有料かを選んで、有料設置の場合は1回の使用で0.5円もらえる仕組み。たまると学校に除菌液などを寄付することができます。「お金の使い方で、人を幸せにする体験をしてもらえる」と末吉さんは話します。
▽心をメンテナンス
一方、精神保健分野での「認知(にんち)行動療法(りょうほう)」で成果を挙げてきたのが東京大学の川上憲人教授。ストレス下で悲観的に考えるくせに気付き、問題に対処できるよう手助けしようと考えました。カウンセリング費用がかからないようにして広めようと、人工知能(AI)が応答するアプリを開発中です。
「自分の心の仕組みを理解すれば楽になれる。外国には認知行動療法を学ぶ子ども向けゲームもあります」(川上教授)
▽触覚で人とつながる
新しいテクノロジーで「感覚」を幸せに結びつけようという試みは、名古屋工業大学の田中由浩教授の研究テーマ「触覚(しょっかく)コミュニケーション」。
触覚は、視覚や聴覚(ちょうかく)に比べ、人によって異なる「プライベートな感覚」。何かを触(さわ)った振動(しんどう)を指に巻いたセンサーが拾い、数値化して複数の人に送り、「触覚」をみんなで疑似(ぎじ)体験。田中教授は「他人の感じ方を知ることで、新たな共感が生まれるのでは」と期待しながら、「幸せ」につながる研究を進めています。
(科学ジャーナリスト・瀧澤美奈子)
(了)
時事通信社配信・岩手日日新聞 2022年1月3日9面(特集)、神戸新聞 2022年1月5日16面(特集)に掲載